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横浜地方裁判所 昭和31年(行)6号 判決

原告 小野保夫

被告 神奈川県教育委員会

主文

被告が昭和二十四年十一月二十二日原告に対してなした

休職処分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として、(一)被告は教育委員会法にもとずき神奈川県に設置せられ、県内所管学校の校長及び教員についての人事に関する権限を有する行政庁であり、原告は昭和三十三年三月末日より県内湯河原町吉浜中学校の教諭として勤務していたものである。(二)然るところ、被告は昭和二十四年十一月二十二日原告を休職処分に付した。そこで原告は処分説明書の交付を求めたところ、同年十二月十四日被告は説明書を交付したが、それによると義務教育費国庫負担法施行令による吏員に過員を生じたため地方自治法附則第五条により官吏分限令第十一条第一項第四号を準用して休職を命ずる旨の説明がなされている。そこで原告は当時施行中の教育公務員特例法第十五条にもとずき、昭和二十五年一月十一日被告に対し、審査請求をなし、併わせて口頭審理の請求をもした。ところが被告は同年十一月二十日第一回の口頭審理を行い、次回期日に続行することとし次回期日は追つて通知する旨告げた。被告は次回期日の指定をなさず日時を経過するうちに、昭和二十六年法律第二四一号教育公務員特例法の一部改正の法律により、同法施行後は大学の教員以外の教員の不利益処分の審査は地方公務員法の定める人事委員会乃至公平委員会がこれを行なうことと定められたが、同法附則第三項は現に審査中の事案に関する審査についてはなお従前の例による旨を定めているので、被告は同法の施行にかかわりなく審査を行わねばならない義務あるのにかかわらず、五年七箇月余を経た今日に至るもなお第二回の口頭審理期日を指定しない。(三)ところで前記休職処分には次のごとき違法であり、取消を免れない。(1)被告は当時教員に過員があつた旨主張しているが、当時生徒数に比し教員の数は寧ろ不足していたものである。現に昭和二十五年三月十日被告は中学校の教諭八十五名の増員を決定している。また吉浜中学校においては原告はただ一人の音楽教諭であつて、原告が休職を命ぜられた後直ちに、新たに音楽の教諭を採用し、その後任としている。故に過員があつたとする被告の主張は理由がない。(2)仮令被告主張のように過員があつたとしても過員に当る人数を休職に付するためには、一定の合理的な基準を設け、その基準に従つて人員の選定を行うべきものであつて、被告の恣意によつて選定を行うことは、教育公務員特例法の全規定の趣旨に反し、違法である。しかるに被告は何等かかる基準を設けることなく原告を休職処分に付した。原告は昭和十九年三月東京豊島師範学校本科二部を卒業、同年四月より昭和二十三年三月吉浜中学校にうつるまで、東京都世田ケ谷区の経堂小学校に勤務していたもので、その在任の全期間を通じ真面目に教員としての職責をつくして来たものであり、特に吉浜中学校においては、生徒及び父兄から優秀な教員として親しまれて来た。このような教員を休職処分に付したことは被告の裁量権を著しく誤つた処分であつて違法である。(3)被告は地方自治法附則第五条を適用して原告を休職処分に付したが、同条第二項は、都道府県の吏員は、政令の定めるところにより、分限委員会の承認を得なければ事務の都合により休職を命ぜられることはない。と定めている。しかるに被告は右分限委員会の承認をうることなく休職処分を行つたもので、違法たるを免れない。(四)よつて行政事件訴訟特例法第二条により本訴請求に及ぶ次第である。と述べ、被告の答弁に対し、左のとおり反駁した。(一)被告は官吏分限令第十一条第一項第四号の「官庁事務の都合により必要あるとき」とある条項を準用して原告を休職に附したことを主張している。ところで当時施行中の国家公務員法によれば、国家公務員に対しその意に反して免職休職の不利益処分を行うのは国家公務員法又は人事院規則に定める事由ある場合に限られ、その処分に不服ある者は同法にもとずき人事院に審査を請求してこれが是正を求め、更に処分に違法あるときは、該処分取消の訴を提起して救済を求めうることとなつていた。しかし当時は地方公務員法は未だ制定せられていなかつたが、地方公務員たる都道府県の吏員に対しては同法制定施行により身分の保障が付与せられるまでの経過措置として、その分限につき官吏分限令を適用し、同法に定める事由がなければ任命権者といえども自由にこれを休職に付しえざるものと地方自治法附則第五条は定めているものと解すべきである。殊に教育公務員については、教育を通じ、国民全体に奉仕する立場にある特殊性を重んじて教育公務員特例法を制定し、その第十五条をもつて任命権者が教員に対し免職休職その他その意に反する不利益処分を行なつた場合には国家公務員法の規定を準用して、任命権者に対し、審査の請求を為しうるものと定めてこれが身分を保証している。これらの趣旨を考えると、官吏分限令第十一条第一項第四号に「官庁事務の都合により必要あるとき」とある休職事由の認定は任命権者の自由裁量に一任されたものと解すべきでなく、客観的な標準に照らし、その者が直ちに教員としての適格性を欠き、その職に当らしめることを不当とする等、相当の理由あることが認められる場合たることを必要とし、その認定は法規裁量の問題に属するのであるから、これが裁量を誤まり、客観的に相当と認められる休職事由なきに拘わらず、これありと判定してなした処分は、違法のものとして、訴訟上取消を免れないものというべきである。(二)被告が原告に交付した処分説明書によれば、ただ予算上の過員を生じたことのみが休職の理由とされており、被告が本訴において主張するその余の理由は附随的なものにすぎない。そこで予算上の定員に過員を生じたとする被告の主張を検討するに、当時神奈川県下の公立中学校の定数については、地方自治法第百七十二条第三項に定める条例の定めがあつたかどうかは明らかでないが、昭和二十四年度における公立中学校教員の諸給与に対する義務教育費国庫負担金の教員定数は三千八百十名と定められていた。しかし他方同年四月における公立中学校教員の実人員数は三千六百五十名であり、予算定員よりも百六十名も少ないのである。このように予算定員よりも実人員が少ないという状態は同年四月より同年十月迄例外なく続いており、同年十一月に至つてはじめて三十三名超過することとなり、以後昭和二十五年三月迄漸増しているのである。これによつてみれば、義務教育費国庫負担法による定員と被告が教育の必要上採用している教員の実人員とは百五十名程度の限度において差異のあることは当然のこととして処理されて来たことは明らかである。したがつて予算上の定員に過員を生じたことを理由として教員を休職に付するには、この限度を超えた著しい過員を生じた場合においてはじめて妥当性を生じるものであつて、六箇月も予算定員より少ない実人員であつたものが偶々逆に実人員が僅かばかり予算定員より超過したからといつて、直ちに、過員を理由として教員を休職処分にすることは、客観的妥当性を欠く違法な処分というべきである。而もその所謂過員も、被告が自ら新たな採用をしたために生じたものであつて、その新採用が止むをえない事情によるものと明らかに認められる理由の存しない限り被告の恣意によつて従来の教員を免職するために新しく教員を採用したものと断ずる外なく、かかる処置の違法であることはいう迄もない。現に前記のように吉浜中学校では同年十二月十九日訴外田代正四郎を原告の代りに音楽教諭として採用している。のみならず被告は同年十一月に二十数名の教員を過員を理由として休職に付しておきながらこれによつて実人員は予算定員に復するのではなく、同年十二月には十一月よりも更に増員し、三千八百五十八名となつている。即ち休職処分に付された人員以上のものがその後任として直ちに採用されているのである。ここにいたつては被告の掲げる休職の理由は全く虚偽であつたという外はない。(三)被告が本訴において、新たに附加した休職処分の理由について、(1)被告は、原告が屡々欠勤し、勤務成積が良くなかつた旨主張するが、原告が特別に他の教諭と比較して著しく欠勤が多かつたという事実は存しない。(2)また被告は原告が教員としての適格性を欠くに至つたことを掲げている。成程原告が宿直の際、担任の生徒で宿直室に集まつて来る者のあつたことは事実である。しかし原告は卒業期を控えた中学三年の生徒を受け持つており、これらの生徒のうちには卒業後の職業の選択などにつきいろいろと不安を持つており、また家庭その他の問題について煩悶をもつ年頃でもあるので、これら生徒がかねて親しみを感じている先生に相談をするために集まつて来たとしても、これをもつて学校の秩序を乱す行為であるとは到底考えられず、ひいてこの行為を許容した原告が、教員として不適格であるとするといわれはない。次に昭和二十四年十一月十八日吉浜中学校の伊東方面の遠足に際し、小林教諭が生徒に課した「伊東方面の経済活動」の調査に関し、原告が生徒数名を伊東市共産党事務所に連れて行つて、そこで伊東市の経済活動につき聴取調査せしめたことは事実であるが、その時の状況は、調査の場所を生徒から訊かれ、共産党事務所では経済調査を行つていることを思いついた原告が数名の生徒を案内したにとどまり、しかも同所での話の内容は、研究事項である経済活動、人口状態、教育状態以上に亘るものでなく、研究事項の調査としては極めて適切な答を得ているものというべきである。教育基本法第八条は、特定の政党を支持し、または反対する政治教育を行なつてはならない旨規定しているが、前記の行動が、特定の政党を支持する教育活動であると解することはできない。しかも右事件は被告が原告に対する休職処分を決定した以後のことであり、真実処分の理由となつたものではない。と。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求め、事実上の答弁として、原告主張(一)、(二)の事実は認める。同(三)の事実のうち、原告の経歴としての卒業学校及び勤務学校の点は認めるがその余の点は否認する、と述べ、被告が原告を休職処分に附した理由は次のとおりである。(一)義務教育費国庫負担法にもとずく教員の定数に過員を生じたこと、即ち昭和二十四年度における神奈川県の義務教育費国庫負担法にもとずく中学校教員の定数は同年七月十八日文部省よりの決定通知により三千八百十名とせられた。しかるに同年十一月一日現在の中学校教員の現員は三千八百四十三名となり、右定員を三十三名超過するに至りこれが整理を余儀なくせられた。(二)原告がその頃屡々欠勤し勤務実績が良くなかつたこと、(三)原告が教員として適格性を欠くに至つたこと、即ち原告はその頃、学校長の禁止に反し沓沢洋一外特定の数名の三年生を屡々夜間、学校に集め宿直室に宿泊させたり、昭和二十四年十一月十八日には三年生一年生の伊東方面遠足に際し、附添教官として同道し、「伊東市の経済活動」の調査に関し、「良い所へ調べに案内してやる」とて三年生の前記沓沢洋一外五名を伊東市共産党本部に連れて行き党員につき状況を聴取調査せしめ、教育基本法第八条の趣旨に反するがごとき行動があつた。以上の事由があつたのであるが、かかる場合、昭和二十四年十月三十一日付被告の決定による基準によれば、官庁事務の都合により休職を発令しうべきこととなつているので、同様の事情ある江崎慧子外二十四名とともに同年十一月十四日職員委員会の休職承認をえ、同年十一月二十二日原告に対し、地方自治法附則第五条により官吏分限令第十一条第一項第四号を準用して休職処分に附したものであつて、被告が休職につき何等の基準を設けず職員委員会の承認もえず、何等正当の理由なくして原告を休職処分に附したとする原告の主張は失当である。と陳述した。

(立証省略)

理由

原告主張の請求原因(一)、(二)の事実については当事者間に争がない。そもそも教育公務員特例法第十五条同法施行令第九条(以上いずれも本件休職処分当時施行せられていた改正前の法条)地方自治法附則第五条により、官吏分限令第十一条第一項第四号を準用して「官庁事務の都合により必要あるとき」に該当するとの理由のもとに、教育公務員を休職処分に附する場合において、右の「官庁事務の都合により必要あるとき」なる休職事由の存否の認定は、任命権者の自由裁量に委ねられているものと解すべきではなく、教育基本法第八条学校教育法第九条及び教職員免許法第五条等の法意に照らし真に教員としての適格性を欠く場合、その他社会通念上、客観的に妥当と認められる事由の存する場合であることを要し、その認定は法規裁量の範囲に属するものと解すべきこと原告の主張するとおりである。

よつて進んで原告に、被告委員会の主張するような休職処分を相当とする事由があるかどうかについて審究する。

(一)  被告委員会は先ず、昭和二十四年度における義務教育費国庫負担法にもとずく神奈川県の中学校教員定数に対し、昭和二十四年十一月現在における同県の中学校教員の実人員数が三十三名超過したので、この過員を整理する必要上休職処分に附した旨主張する。証人加藤一太郎、北村峰雄の各証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第一号証、証人大栗良雄の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第二号証を綜合すると、昭和二十四年度における神奈川県公立中学校の諸給与に対する義務教育費国庫負担金の教員定数を三千八百十名と指定せられたこと、神奈川県公立中学校の教員の実人員数は昭和二十四年十月末日現在、三千八百四十三名であり、従つて右の教員定数を三十三名超過していたこと(この場合が、官吏分限令第三条第一項第三号に定める「定員の改正により過員を生じたるとき」に該当するものでないことはいうまでもない)が認められる。ところで学校教育法第五条は、学校の人的経費、物的経費を含むすべての経費は、法令に特別の定がない限り学校の設置者がこれを負担することの原則を定めたが、その後市町村立学校職員給与負担法の施行により市町村立の小学校、中学校等の教職員の給与は全部都道府県において負担、支給することとなり、従つて都道府県下公立中学校の教職員の給与は都道府県の負担するところとなつた。而して、従前より施行されてきた旧義務教育費国庫負担法により、右都道府県の負担すべき給与は、その半額を国庫負担とする建前になつていたことは当裁判所に顕著な事実である。他方都道府県教育委員会は、その首長より独立し、その所管学校の設置管理、教職員人事教育予算、社会教育等広汎な権限と職責とを有するものであるが、教育委員会法本来の趣旨に則り、教育行政の地方分権化、自律化の建前に沿うて、独自の教育行政目的達成のために独自の立場において教育予算(暫定予算を含む)の編成、確定に当るべきこというまでもないことであつて、単に教職員の実人員数が国庫負担の定員数を超過することのみを理由として、過員を整理することは許されないものといわなければならない。蓋しその給与の半額を負担するにすぎない国家予算の多寡によつて都道府県の公立学校教職員の身分保障が左右されるものとすれば、身分を保障する筈の官吏分限令の趣旨は、大半失われてしまうことになるからである。本件についてこれをみるに、前顕各証拠を綜合すると、昭和二十四年四月当時の神奈川県の中学校教員の実人員は三千六百五十名であり、翌五月より同年十月に至るまで例外なく前記国庫負担定員数より少なく、同年十一月(正確には同年十月三十一日)に至つてはじめて三十三名超過することとなり、同月原告を含む二十数名の者が休職処分に附されながら翌十二月には三十数名の者が新たに採用され、以後昭和二十五年三月まで漸増の傾向を辿つていること、昭和二十四年十一月以降昭和二十七年二月まで国庫負担定員数超過を理由として教員の整理がなされた事実の存しないことが認められる。以上の事情を合わせ考えると、昭和二十四年十一月当時、被告委員会として前記過員三十三名の給与につき予算上の措置を採り得なかつたものとは考えられず、況んや前記二十数名の教員を整理しない場合は、その所管中学校の運営に重大な支障を来たすものとは到底考えられない。してみれば被告委員会の主張する前記国庫負担の定員数の超過は、原告を含む前記二十名の者に対する休職処分を相当とする事由たりえないものといわなければならない。

(二)  次に被告委員会は本件休職処分の事由として、原告が屡々欠勤し、勤務実績が良くなかつた、との点を挙示するので、この点につき勘考する。その方式及び趣旨並びに弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二号証の一乃至三、証人小林泰一の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第五号証の一、二並びに原告本人の供述を綜合すると、原告は吉浜中学校在職中、昭和二十三年四月以降翌二十四年十一月までの間三十日前後欠勤し、その在職期間に対する欠勤日数の割合は同校の他の教員に比し若干高かつたことが窺われる。しかしながら他方証人岡崎潤、沓沢洋一、山田忠雄、榎本清の各証言を綜合して認められる、原告の東京都世田ケ谷区経堂小学校在職中における勤務成績、父兄、同僚よりうけた信頼の程度、更に吉浜中学校在職中の生徒、父兄よりうけた信頼の程度等を合せ考えると、前記程度の欠勤日数より推して原告の勤務成績が特に不良であると即断するわけにはいかず、本件原告に対する休職処分の正当事由となすには当らない。

(三)  更に被告委員会は、原告が教員としての適格性を欠いている旨主張するのでこの点について考えてみる。

(イ)  証人小林泰一(一部)、沓沢洋一の各証言及び原告本人の供述を綜合すると、原告は吉浜中学校在職中、学校宿直の際、自己の担任学級の生徒沓沢洋一、常磐昭夫等を再三に亘り、宿直室に宿泊せしめたことが認められる(前記小林証人の証言中、右認定に牴触する趣旨の部分は信用しない)。しかしながら被告委員会が主張するごとく、学校長の禁止に反し、生徒数名を屡々、夜間、学校に集め、宿直室に宿泊させたという点については、証人小林泰一の証言中右主張に沿う部分は、原告本人の供述並びに弁論の全趣旨と合わせ考えるとにわかに信用するわけにはいかず、その他右主張事実を肯認するに足りる証拠は見出しえない。

而して前認定の程度の原告の行為が、校舎の管理乃至学校の運営を阻害するものとは考えられないし、また原告が教員としての適格性を欠くものと判断する根拠とはなしえないものと考える。

(ロ)  成立に争のない乙第六号証の二証人小林泰一の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる同号証の一、三証人岡崎潤の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる同号証の四証人沓沢洋一の証言並びに原告本人の供述を綜合すると、昭和二十四年十一月十八日、原告は前記小林泰一等とともに吉浜中学校の三年生徒等を引率して、伊東方面の遠足に行つた際、かねて同校社会科担任の右小林教諭の出題しておいた「伊東市の経済活動」について、岡崎潤、沓沢洋一等数名の生徒に対し、これが調査資料を提供するため、同人等を伴い伊東市所在日本共産党事務所に赴き、同所に居合わせた二名の者から調査資料を得させたことが認められるが、この資料提供者がその提供した資料を通じ、またはこれとは別個に、右生徒等に対し、一党一派に偏した政治活動をなしたという点については、被告委員会は何等具体的に主張し立証するところがない。故に原告の教員としてなした前記行動を目して学校教育の政治的中立性を害する政治活動なりとし、教育基本法第八条の趣旨に反するものと断ずるわけにはいかない。

以上のようなわけで、原告に対する本件休職処分の理由として被告委員会の主張するところは、証明がないか、または証明があつても、重い休職処分の事由としては薄弱であり、客観的に相当な事由と考えられない。

よつて本件休職処分の取消を求める原告の本訴請求は正当として認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石崎政男)

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